「私、知っています・・・。その十字架の痣を持つ人・・。」
第十五章 〜それは友情という名の裏切り〜
金髪の少女はリョウ達の目をしっかりと見て言った。
知っている!? まさか!
「どんな人でしたか!?もしかして、栗色の長い髪の女の子でしたか?」
リョウは少女に詰め寄る。
「え、ええ・・。確かに栗色の長い髪でした。その人と同じ十字架の痣を持っていました。」
少女がそう言うとリョウは勢いよくサクラの方に振り向いた。
レオナだ! やっぱり彼女が歯車だったんだ!
「サクラさん!レオナですよ!やっぱり彼女が歯車だったんだ!」
道が開けた!これまで、彼女が歯車かもしれないという予測だけだったが今、確信がもてたのだ。
「どうやらそうみたいだね。ところで・・その子がどこに行ったか分かるかなぁ?」
サクラは少女を凝視する。
彼女の言葉を完全に信じてはいないようだ。
「分かります。彼女、この先のリーズ村に行くって言ってました。大切な用事があるって。」
少女はサクラの質問に即答した。
そして、ポケットに入れていた地図を手渡す。
小さい、手のひらサイズのものだ。旅一座はあちこちの地方を旅する。
道に迷わないように持っているのだろう。
「それ、差し上げます。ここの道をずっと北に進んでください。2日あれば、辿り着けると思います。」
サクラは受け取った地図を見る。
なるほど、この距離なら2日あれば到着出来るだろう。
馬車で行くともっと早く着けるかもしれない・・・。
「ありがと。どうする? リョウ君、行ってみる?」
サクラはリョウの方を向いて尋ねる。
「そうですね・・・少し、休憩して、それから出発しましょう。
レオナもそう早々と別の場所に移動したりはしないと思いますし。その村が故郷って可能性もありますし。」
それもあるけど、ルカともう少し話したいのも本音。
それに少し疲れたから、休憩もしたい。
本当は2、3日この町に留まってゆっくりいろんなものを見てみたい気もするけど、観光に来たわけではない。
「じゃあ、僕は店で何か買い物してくるよ。リョウ君、ここに居て。・・いいかな?ルカちゃん。」
「はい。」
サクラの申し出にルカは頷く。
そして、自分の隣に立つ金色の髪の友に視線を移した。
サクラが買い物に行っている間、リョウは馬車から降りて地面に腰を下ろした。
芝生に寝転がり、空を見上げる。
背中に感じる草のちくちくした感触が心地いい。
そういえば、村に居た頃はよくノアと一緒にこうやって寝転んでいたっけ。
そして他愛もない話をずっとして、ノアが自分の家に夕飯食べに来いってよく誘って・・。
懐かしい・・・。
「気持ちいいですか? リョウ。」
突然自分の視界にルカの顔が現れる。
リョウが驚いて声を上げると彼女は可笑しそうに笑った。
そして彼の隣に寝転がる。
「せっかく友達になれたのに・・・もう行っちゃうんだね。」
そう言いながらルカも空を見上げる。
日差しが優しい。
ぽかぽかして眠ってしまいそうな天気だ。
「うん。目的があって旅してるからさ・・・。でも、ルカの友達のお陰で助かったよ。
僕ら、何も手がかりが無くて・・。どうやって彼女を探そうか困っていたんだ。」
そう言ってリョウは視線を移してルカを見る。
しかし、何故かルカは彼の言葉を聞くと視線をそらした。
「・・・どうして十字架の痣を持った人を集めているの?」
おそるおそる問いかける。小さな声。
「・・・・。」
リョウは回答に困った。
彼女には何の関係も無いことだ。
そう易々と他人に話していいものでもない。
しかし、何も答えなかったら返って怪しいような気がする・・。
さて、どうしたものか。
リョウが黙っているとルカは彼のそんな空気を読んだのか慌てて手を振る。
「ご、ごめん! 話したくないこともあるよね。気にしないで。」
気遣ってくれたらしい。
半ば申し訳ない気持ちも含みながらリョウは彼女に礼を言った。
「きっと・・リョウは大変なんだよね・・。」
空を見ながらルカは小さく呟く。
「あの兵士たち・・・リョウ達を狙ってたんだよね。理由は分からないけど。
私が芝生にしゃがみこんでいた時、兵士たちとサクラさんの会話、ぼんやり聞こえてたもの・・。」
ルカの脳裏にかつて、団長や団員の仲間たちが自分に言った言葉が蘇る。
『ルカ、心配・・・ていい・・・。・・・が、絶対・・・・・・・・・だから。』
命を狙われているのに、それでもリョウ達は旅を続けている。
彼らは凄い。
どうして逃げないのだろう・・。怖くはないの?
死んでしまうかもしれないんだよ? 私だったら耐えられない。
どこかにひっそり身を隠す。
でも、貴方たちは・・・。
「うん・・・大変だよ。ていうか、怖い。」
突然リョウがそう言い、ルカは彼の方を向く。
「未だになんで僕が・・って思ったりもするんだ。僕はそんなに物分りがいいわけでもないし。
でも、僕らじゃないと駄目なんだって。
他の人じゃ出来なくて僕らにしか出来ないことだなんて言われたら、
もう逃げ出すことなんて出来ないじゃない。だから、決めた。」
決めた・・・何を?
ルカはリョウをじっと見つめた。
ふいにリョウがルカの方を向く。
視線が合った。
「今、自分がやらなくてはいけないことを、自分なりに精一杯やる。悔いが残らないように。」
そう言って笑った少年の顔を少女はじっと見つめていた。
悔いが残らないように・・・精一杯・・・。
「ね?だってさ、そのほうが後悔しないと思うからさ。」
後悔・・・・。
ルカの頭の中にはさっきの彼の言葉が渦巻いていた。
自分だって後悔はしたくない。
自分のやるべきこと、精一杯やらなくてはいけない。
分かってる。
頭の中では分かってはいるのだ。
でも・・・
「それでも、一歩踏み出せない・・・。」
「え?」
ルカの言葉にリョウは目を見開く。
どういう意味なんだろう・・・。リョウはルカに問いかけようとした。
「怖いの。やっぱり・・・。リョウみたいにはなれないよ・・。」
そう言ってルカは自分のワンピースの裾を握り締める。
きつく、きつく・・・。
「ルカ?どうしたの?」
不安そうに聞くリョウの声も遠くに感じる。
ああ、自分は弱い。
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」
何度も彼女はリョウに謝った。
彼が何も理解していなくても。
戸惑っているリョウを前に少女は何回も同じ言葉を繰り返した。
リョウには、何故彼女がこんなにも自分に謝るのか・・分からなかった。
第十五章〜友情という名の裏切り〜